S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
「では入籍後の戸籍謄本をお持ちしたら信じていただけますか?」
藤谷は「戸籍謄本?」と繰り返し、しばらく逡巡した後。
「さすがにそれだったら信じる以外にないだろうね」
「では、入籍を済ませましたら、改めて教授にご提示いたします」
「疑うようで申し訳ないね、京極くん。娘の希望をできるだけ叶えてやりたい親心をわかってもらえるとありがたいよ」
ここまでされてもなお、朋久を娘の結婚相手にしたいと盲目的に願う藤谷に菜乃花は当惑を隠せない。
(結婚は、お互いの気持ちがあってこそ成り立つものなのに)
そう感じた直後に、偽装結婚をしようとしている自分たちに藤谷を責める資格はないと考えを改めた。
結局は藤谷に署名をもらえず、婚姻届はまだ完成していない。娘の好きな男がべつの女性と結婚する証にサインなどできないと突き返されたのだ。
後日、朋久が雅史に署名してもらうことになり、和菓子を堪能した菜乃花たちはホテルエステラを後にした。