S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
「だけど、ほんの少し前まで付き合ってもいなかったでしょう? それとも内緒にしてただけ?」
「ううん、付き合ってなかったよ」
今だって、そうではない。
「それじゃ、どうしていきなり結婚なんて? 政略結婚ってわけでもないだろうし」
両親をとっくに亡くしている菜乃花は政略的に結婚する必要性はないし、朋久にも結婚で得られる利点はない。
「今まで近くにいすぎて気持ちに気づかずにいたんだけど、バレンタインデーのときにお互いに気づいたというか……」
朋久が両親に説明したときのように無難に理由づけする。
本当は幼い頃から朋久を大好きなことも、べつの女性との縁談回避のための偽装なのも、菜乃花の胸の中に閉じ込めた。
「まぁね、京極先生みたいに容姿も性格も社会的地位も申し分のないパーフェクトな人のそばにいて、好きにならないほうが無理だけどね。現に、そばにいなくたって狙ってる女性たちはわんさかいるわけだし」