S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

菜乃花たちが入籍したのは、なにをおいても彼を納得させるため。それがうまくいったのなら万々歳だ。


「菜乃」


不意に名前を呼ばれて大根を端で切り分けながら「ん?」と目だけ向ける。


「デートするか」
「デ、デート!?」


唐突に誘われ目を丸く見開く。手元が狂って、大根が器から飛び出した。


「おいおい大丈夫か? そんなに大きく開いたら目が落っこちるぞ」
「だってデートって」


そんなふうに連れ出された記憶は菜乃花にない。


「いろいろ面倒かけたし。……嫌ならべつにいい」
「ち、違うの! ただびっくりしちゃって」


憮然とする朋久に急いで訂正しつつ、慌てて大根を皿の端にのせる。デートなんて想像もしていなかった。
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