S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

昔から彼女は朋久にとって別格の存在だった。八歳離れているため、そこに恋愛感情があったかといったら違うのかもしれないが、誰より大切に想う女性だったのはたしか。

事実、重ねてきた恋愛遍歴で、恋人に対する気持ちにはどこか一線を引き、気持ちの中で踏み込めない――いや踏み込まない部分があった。
守るべき菜乃花の存在がちらつき、本気になれずにきた。

心の奥底で眠っている想いの欠片を見つけたのは、菜乃花と入籍する前だ。

それがみるみるうちに我が物顔で朋久の心を侵食しはじめ、いつの間にか完全に乗っ取られている。彼女がかわいくて仕方がない。
そんな気持ちが抑えられず、観覧車でキスをしたのは迂闊だった。

菜乃花にしてみれば、朋久は書類上の夫である以外の何者でもない。七年も朋久のもとで暮らしてきたのだから嫌われてはいないだろうが、そもそも男として見られていない可能性のほうが高いだろう。
婚姻届にサインして入籍に同意したのは、朋久に対する恩義があるため。世話になったお返しにほかならない。

証人欄へのサインを雅史に頼んだとき、彼にも『ほらな、やっぱり』とからかわれた。『お前もやっと自分の気持ちに気づいたのか。しかしずいぶん時間がかかったな』と。
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