S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

菜乃花もそれを引き継いだため、生前の頃と変わらないものが収納されている。
両親とも几帳面なタイプで、クローゼットの中はしっかり分類されて美しい状態。ダンボールやケースに乱雑に物が入っていることもなく、たった今整理したように綺麗だ。


「ここにはなにもなさそう」


廉太郎の言っていた〝繋がるもの〟がなんなのか想像もつかないが、少なくとも洋服類にはないだろう。寝室内の引き出しを開けたが、やはりそれらしいものは見つからず、一階のリビングに向かった。

そこは母がもっとも長く時間を過ごしていた場所。ベージュの布製のふたり掛けのソファは特に母のお気に入りで、そこに座り、よく小説を呼んでいた。
大好きなミステリーはリビングの一画にある扉付きの棚に並べて収納され、その本たちは今もここにある。

扉を開けたら懐かしさが込み上げ、そのうちの一冊を手に取る。それは中でも母が大好きで、何度も読み返していた恋愛ミステリーだった。
棺に入れてあげればよかったと後悔した物だ。

なんとはなしに本棚の下にある引き出しに手をかける。たしかそこは、届いた年賀状や手紙の類が収納されていたはず。

母が亡くなったときに一度、通帳を探して開けた記憶がある。結局ここにはなくて、べつの棚から出てきたが。
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