S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
(でも……)
そうするのが一番だとわかっていても、白黒をつけるのが怖い自分がいるのも事実。公に兄妹だと判定されたら、違うかもしれないというわずかな希望がいっさいなくなる。
「その気になったら、いつでも電話をしておいで。おじさんは菜乃花ちゃんの味方だからね。あ、それから、この話は京極家の人たちには話さないほうがいいだろう」
「……それはわかってます」
幸せな家庭に波風を立てるような真似はしたくない。浩平と母が不倫していた過去を浩平の妻が知らないのなら、わざわざ知らせて悲しませたくはない。
そのうえ血の繋がりのあるふたりが結婚してしまったのだとわかったら、浩平も寿々も、もちろん朋久だって取り返しがつかないほど深く傷つくから。
廉太郎は最後にもう一度念押しをしてコーヒーショップを後にした。
すっかり冷めきったカフェラテに口をつける。砂糖を入れたはずなのにまったく甘みを感じず、コーヒー特有の苦みがわずかに口に残った。