S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

*****

明かりを落としたホームシアタールームに迫力のあるサウンドが響く。

朋久は菜乃花と並んでソファに座り、彼女が買ってきたアクション映画を観ていた。すべてを失った殺し屋の復讐劇を描いたガンアクションものだ。
一年前のロードショーで話題になったが、観そびれていたのを菜乃花は覚えていたのだろう。

一緒に観ようと誘った張本人は、はじまってものの二十分で寝息をたてていた。

菜乃花の様子がおかしいと朋久が感じはじめたのは、神戸出張から帰った日からだった。

真っ暗な部屋でソファに座っていた菜乃花は眠っていただけだと言っていたが、それが嘘だと簡単に気づくくらい朋久は彼女をよく知っている。

一緒に過ごしてきた時間が長いからこそ、想いを通わせてからは瞳や唇の小さな動きである程度の気持ちは読み取れるのだ。

出張から帰って以来、菜乃花とは体を重ねることはおろかキスもしていない。それまであたり前のようにしていた〝おはようのキス〟も〝おやすみなさいのキス〟も、避けられ続けている。

風邪や生理を理由にセックスを控えるのは当然としても、キスを避ける理由にはならない。彼女はさりげなくかわしているつもりかもしれないが、不自然さは一目瞭然。なにかがあったのは確実だ。
< 233 / 300 >

この作品をシェア

pagetop