S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

それも、ふたりの関係を揺るがすほど大きな事件が。
菜乃花が朋久を避けるなどこの二十四年間一度もなかったのだから、異常事態と言っていいだろう。

ほかに好きな男ができたか。――いや、まさか。

これまで朋久だけを好きでいてくれた菜乃花が、ほかの男に目を向けるはずがない。

そんな多大な自信とは裏腹に、もしかしたらという疑念も少なからずあった。
朋久の心を手に入れた成果に満足し、価値が一気に暴落してもおかしくない。それまでの想いが大きければなおさらだ。

今夜、DVDを一緒に観ようと誘ったのも、セックスを回避するためだろう。

鮮やかなアクションを繰り広げる映画のサウンドをものともせず、菜乃花はすやすやと気持ちよさそうに寝ている。

ここ数日、彼女がよく眠れていないのも朋久は気づいていた。


「菜乃、なにがあったんだ。俺にも話せないようなことって、なんなんだよ」


語りかけても、返ってくるのは寝息だけ。心当たりがないのがもどかしく、苛立ちすら覚える。

しかし朋久は、菜乃花を手放すつもりは毛頭ない。誰にもふたりの仲は割けないし、もしもそんな真似をする奴が現れたら、容赦なく潰すだけだ。
朋久は眠る菜乃花の頬に唇を押しあてた。
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