S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
「なんだ、お腹が空き過ぎて死にそうって顔だな」
いつもの冗談にも反応できず俯く。
こういうやり取りもできなくなるのかと、張り詰めた胸が苦しい。
「……菜乃?」
異変を察知した朋久が、リビングの入り口に棒立ちになっている菜乃花の元にやって来る。
話し合いを引き延ばしても傷が深くなるだけ。――今しかない。
「朋くん、話があるの」
「話? なにか欲しいものでもあるのか? 甘いものをたらふく食べたいとかいうのなら、やめておいたほうがいいぞ」
深刻な空気を感じておきながら、わざとからかっているようでもある。もしかしたら朋久は、最近の様子の変化に気づいていたのかもしれない。
理由をつけてキスもセックスも避けていれば、なにかしら感じて当然だろう。
朋久の脇を通り抜けて菜乃花がソファに腰を下ろすと、不審そうな表情をしながら彼も隣に座った。