S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

「菜乃、行くぞ」
「うん。それじゃ、充くん、また」


会釈をして彼に背を向けて朋久と歩きだす。


「〝また〟はないのがわからないのか」
「今のは挨拶のひとつだから」


意味のない言葉だ。


「ったく菜乃は……」


不服そうにぶつぶつと呟く朋久の腕に絡みついたときだった。


「京極さん……?」


通路の少し先で女性が立ち止まる。

惰性で歩いていた菜乃花たちも、彼女の目の前で足を止めた。光の加減でよく見えなかった女性の顔が明らかになる。

(あれ? もしかして藤谷教授の……)

長い髪を夜会巻きにし、若草色の着物を着ていた。
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