S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

「さっきの案件、解任予定の父親の財産管理問題が発生する可能性もあるだろうから、後見もしくは保佐開始申立の準備も進めておいたほうがいいだろうな」
「承知いたしました。一連の書類につきましては僕のほうで準備させていただきます」


真剣な顔で聞き入っていた野々原が、ふと表情を緩める。


「先生、仕事とはべつの話をしてもよろしいですか?」


エレベーターに乗り込みパネルの二十階と二十九階をタッチした彼に目で〝どうぞ〟と促した。


「若槻さんって彼氏はいるのでしょうか」


仕事から話題が逸れるとはいえ菜乃花の名前があがるとは予想もせず、「え?」と聞き返す。


「あ、いや、以前からかわいいなと」


それまでの硬い表情はどこへやら、野々原は頭をかきかき目尻を下げた。
菜乃花に好意を抱いているのは容易に気づく。
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