S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
しかしそれ以上に弁護士の仕事に誇りを持っている父は輝いて見え、子どもながらカッコいいと羨望の眼差しを向けたものだ。
朋久が生まれたときにいわゆる〝イソ弁〟だった父・浩平は独立後、それこそ寝食を惜しんで仕事に励み、この三十年あまりで他の法律事務所との合併を繰り返して京極総合法律事務所を日本の四大法律事務所と呼ばれるまでにした。
もちろん合併だけで大きくなったわけではなく、多方面における実績とクライアントとの信頼関係がなせる業である。
日本の経済界を背負って立つような大企業との顧問契約を結んでいる弁護士が多数在籍し、朋久もそのひとり。主に企業間のM&Aを受け持つ流れで、そのまま顧問となることが多い。
四大法律事務所と呼ばれる所以は、弁護士や事務所スタッフの人数が多く、依頼や顧問先も多いことがあげられるが、その多さは有用な情報が常に多方面から集まってくる環境にあることを意味する。
珍しい依頼を受けたとしても、過去に似通った案件を扱った弁護士が所内にいることも少なくない。
そのうえ、裁判官の個性や思考の癖まで事務所内で共有しているのは有利な点だろう。独自の情報を集めているほど、裁判や交渉を優位に運べる可能性が高くなる。
事務所の自室でパソコンに向かい、クライアントへのメールを送信後、朋久の頭にふと菜乃花の顔が浮かんだ。