S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

雅史に妙なことを言われて以降、菜乃花を変に意識して敵わない。あれから朋久はどうもおかしいのだ。先ほどの野々原の発言に対する動揺もそう。

これまで菜乃花は妹同然だった。
会えばいつも『朋くん』と懐いてくる彼女はかわいく、プレゼントしたヘアアクセサリーを大事に着け、朋久に『似合う?』と確認する様子が微笑ましかった。

そんな彼女の笑顔が翳ったのは、両親を立て続けに亡くした頃。回りの人間に心配をかけまいと気丈に振る舞い、強くあろうとする姿は痛々しく、心が突き動かされた。

彼女を守ってやりたい、これ以上傷つかないようにしてやりたい。
菜乃花を自宅マンションに住まわせたのは、そんな庇護欲から。女性として見てはいなかった。

ところがここ数週間、自分の不可解な心の動きに朋久は戸惑っている。

先週末もそう。同期との食事会と聞き、やけに胸が波立ち騒いで仕方がなかった。
これまで菜乃花が誰とどこで食事をしても、要請がなければ迎えに行きはしなかったのに。

おまけに彼女のはとこ、充からの着信でモヤモヤが募り、わざと大きな声で電話中の菜乃花に話しかけた。

さらには『付き合ってないよ』と、おそらく自分との関係性を充に問いただされて返した言葉に朋久の中でなにかが変わる気配がした。
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