S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
弁護士事務所で持ち出される話題とは遠く、目が点になった。
「お付き合いしている女性はいないと言っていただろう?」
「そうですね」
たしかに少し前に会ったときに藤谷に尋ねられ、そう答えた記憶はある。
菜乃と同居して以降、浮いた話がないのは事実。女性のほうからストレートに誘われることも、それとなく言い寄られることもあるが、仕事を理由にして断ってきた。
恋愛する気分にならなかったのは、抱えている案件で頭がいっぱいで入り込む余地がなかったからだろう。
「そこで提案なんだが」
ソファに座ったまま藤谷が前のめりになる。
なにを言おうとしているのかピンときた。
「うちの娘にはキミも何度か会ったことがあったと思うんだが」
「綾美さん、ですよね。まぁ数える程度ではありますけど……」
「そうそう、その綾美との結婚を考えてみてはどうかな」