S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

予感は的中。瞬間、なぜか菜乃花の顔が頭を過る。
藤谷は目元を細めて頬を綻ばせるが、朋久は身構えた。参ったなというのが正直なところだ。


「綾美も二十九歳になったんだが、いかんせん引っ込み思案で彼氏がいた試しがないんだ」
「そう、ですか」


何度か会ったことのある彼女はこちらの挨拶に小さな声で返し、控えめな笑みを浮かべて一歩引くような感じだった。たしかに自分からグイグイいくようなタイプではない。美人で清楚なお嬢様といった風情だ。


「つい先日、綾美に『誰か気になる人はいないのか?』と聞いたら、なんと京極くんの名前を出すじゃないか。これは親としてひと肌脱ぐしかないと、ここまでやって来た次第だ」


藤谷は若干興奮して鼻の穴をヒクヒクさせた。


「それは光栄です」
「では了承してくれるんだね?」
「いえ、そうではありません。私の名前をあげてくださったことに対するお礼です」


パッと顔を輝かせる藤谷に冷静に返す。
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