S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

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近くのビストロでランチをとった後、里恵と別れて弁護士会館へ寄ってから戻った菜乃花は、ビルのエントランスに朋久が立っているのに気づいた。

恰幅のある年配の男性と若く美しい女性が一緒なのに気づき、咄嗟に太い柱の陰に隠れる。

ストレートの黒髪は艶めき、清楚な感じのする女性だ。菜乃花よりも年上だろう。とても大人っぽい。

(綺麗な人……。誰だろう。クライアントかな)

そのふたりが朋久に背を向けて歩きだす。
それまで笑顔を浮かべていた朋久だったが、彼らが離れていくにつれ浮かない表情になった。

(朋くん、どうしたんだろう。――もしかして朋くんの……彼女?)

クライアントと捉えるのが普通かもしれないが、なぜかそのときはそう感じた。ある種の予感めいたものとでもいおうか。

朋久に恋人の存在がはっきりとあったのは、菜乃花が小学生から高校生にかけて。それも誰もがお人形さんのようにかわいらしいか、モデルや女優のように綺麗な人ばかり。

菜乃花では絶対に手が届かないポジションにいる彼女たちを羨ましいのと同時に、絶対に敵わないなと敗北感でいっぱいだった。
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