S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
同居するようになってからは菜乃花に遠慮していたのか、本当は内緒で恋人がいたのかは定かではないが、恋人らしき人物の影を感じたことがない。
だけど朋久だって、いつまでもそうはいかないだろう。
先ほどの女性が恋人でないにしろ、一緒にいた年配の男性が朋久に紹介した可能性だってある。雰囲気から察するに、それが一番しっくりくる気がした。
朋久が浮かない表情をしたのは、同居している菜乃花をどうすべきか悩ましいからではないか。
どんどん遠くなっていくふたりの背中を呆然と見送っていたら、「菜乃?」と声が掛かる。振り返らなくても、それが朋久だとわかってドキッとした。
(……見つかっちゃった)
笑顔を準備してから振り向く。
「京極先生、お疲れ様です」
「またその呼び方。むず痒いからやめろ」
「でも、ここは職場ですから」
さっきのふたりのことを聞こうかどうしようか迷って視点が定まらない。
もしも〝菜乃の言うとおりだ〟なんて言われたらと考えると怖くて、なかなか勇気がもてなかった。
「菜乃」
「は、はい」