S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
考えごとをしている最中にいきなり名前を呼ばれて焦り、つい堅苦しい返事をしたが、朋久はそれについて特に気にも留めていない様子。いつもだったら〝はいってなに〟などと言いそうなものなのに。
朋久が真顔だったため、なんとなく緊張が走る。
「あとで話がある」
「……話?」
嫌な予感がした。さっきの光景と今の朋久の言葉が線で繋がる。
里恵たちと食事をしたあとに迎えに来てくれた車内で、朋久が言いかけた言葉と同じではないか。あのときは朋久のスマートフォンに着信があり〝俺たち〟で止まったまま、その先を未だに聞いていない。
「ああ」
「今ここじゃできないの?」
深刻な話なのかどうかを探りたくて聞く。
「帰ってから話すよ」
「帰って、から……」
やはりそうだと落胆せずにいられない。