S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
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菜乃花が居候している朋久のマンションは、駅を中心におしゃれなショップやカフェ、レストランが数多くある街にある。便利なロケーションにもかかわらず閑静で緑が豊富な落ち着いた雰囲気が魅力だ。
フランスの有名なデザイナーが監修した三階建ての低層マンションは夜、ライトに照らされてその美しさをいかんなく発揮する。
重厚感のある外観ファサードのやわらかな光を通るたびに心が満たされ、広いロビーは最上階までの吹き抜けが贅沢な空間を造っている。
初めて訪れたときには開いた口が塞がらないほど、その壮大な美しさに驚かされた。
商社勤めの父親を持つ菜乃花はごく一般的な家庭で育ったため、高級なものとは縁遠かった。朋久が大手の法律事務所の跡取りだとわかってはいたが、想像以上に住む世界が違うのだと思い知らされたものだ。
しかし当時の菜乃花はまだ十七歳。弁護士ってすごい、くらいにしか考えられなかった。
今は違う。この世界は菜乃花がいていい場所ではないと、頭ではわかっている。
エレベーターで三階まで上がり、部屋に入る。
午後七時。この時間、朋久はまだ帰らない。
彼が帰る前に食事の支度を済ませようとキッチンに立ったが、冷蔵庫を開けてもメニューがなにも浮かばず途方に暮れる。