S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
体の動きは鈍いのに、心は忙しなく揺れ動いたまま。朋久から切り出される前に、自分から言うべきかもしれない。――ここを出ていくと。
キッチンで突っ立ちながらそんなことを考えていたら、玄関が開く音がした。
スリッパの音が近づいてくる。
言おう。言わなきゃ。
そう考えて心臓が早鐘を打つ。足音が間近まで迫り、意を決し振り返った。
「朋くん、おかえりなさい」
声を掛けながら彼のいるリビングへ向かう。
ベージュの大理石の床に、階層二階分の高さがある天井から吊るされたモダンなシャンデリアが反射する。
「ただいま、菜乃」
うまく笑えているだろうかと心配で気持ちが落ち着かない。
朋久はいつもと変わらない様子でホワイトレザーのコーナーソファに脱いだジャケットを置いた。
「あのね、朋くん、私も話があるの」
「菜乃も?」