みうとうみ               ~運命の出会いは突然に~
 それから3時間ほど経っただろうか。

 夕日が西側の窓から差し込んできて、窓際の閲覧席を照らしている。

 彼はまだそこにいた。
 小説らしき本を読みふけっている。

 集中しているのか、閉館のチャイムがなっているのに気づいていない。


「ねえ……」

 声をかけると、驚いたように顔を上げた。すっかり本の世界に埋没していたらしい。

 ああ、その顔。分かる。
 わたしも本に夢中になりすぎて、何度も電車で乗り過ごしたことがある。

「もうすぐ閉館なんで……貸出もできるけど」
 わたしは声をかけた。

「あ、ああ。でも、おれ、カードとか持ってない」

「何か住所が確認できるものがあれば、すぐ発行できるよ」

「じゃ、頼もうかな」

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