みうとうみ               ~運命の出会いは突然に~
 けれど、足音はわたしの部屋の前を通り過ぎ、隣の部屋の前で止まったようだった。

 ああ、そうか。
 大洋が訪ねてきたのは、わたしの部屋じゃなくて、隣の部屋だ。

 そう。
 仕事だって言ってたじゃない。

 そういえば、前にこのアパートを知っている、と言ってた……
 こんな何も変哲のないアパートをなんで知ってるのだろうかと不思議だったけれど。

 “仕事で来た“ことがあったのか……

 とたんに、冷水を浴びせられたように心が凍りついた。

 扉が開く音がして、すぐ、いつもより2トーンは高い隣の奥さんのはしゃいだ声が聞こえてきた。

「もう、なかなか旦那、出張行かなくてぇー。会いたくて我慢できなかった」

「おれも……会いたかったですよ」
「嬉しいな。そう言ってくれると」
 まるで別人のような大洋の声。

「ねえ、早く中に入って」
 その声を最後に、話し声は聞こえなくなった。

 わたしは、急いで奥の部屋に駆け込み、スマホで音楽をかけ、イヤホンをつけ、音量をめいっぱい上げた。
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