snowscape~彼と彼女の事情~
灰皿を灰を落とすために引き寄せたものの、その行為すら忘れて
その代わりに俺の指の間に挟まっていたタバコがそこに置かれた
そこから立ちあがっていく煙が自分の視界に入ると
タバコの吸わない友里の為に消さなくてはいけないなんて思ってしまった俺がいて
そんな自分にもびっくりしていたが、何よりもその歌声に聞き惚れたいた自分がいることの方がびっくりだ
「上手いな……」
間奏の間にそう勝手に俺の口から出た言葉に、隼人がびっくりした様子で俺を直視していて
「いや、そんなことない」といきなり振り返っては首をブンブン振っている友里がいる
「いや、うめ〜って」
隼人の視線が俺の視界にはっきり入っていることなどきっと奴も気づいてはいるのだろう
その顔が緩んでいることもよく分かっている
だけど、今は奴を相手にするほど今の俺に猶予はなくこの歌声を聞いていたいと思ってしまった。
間奏が終わりまた曲が始まろうとすると友里はまた俺に背を向け歌い始める
正直、このハードルの高いと思われていた曲をこんな風に歌いこなせるとは思わなかったし
こんな小さな女の子から、こんな声がでるなんてことも思わなかった。
「キーッ!!友里ってば、最高っ〜♪」
「友里チャン、すげ〜うまいっ!!」
静かな空間に大きな声が聞こえると“もう終わってしまったのか”と気づかされるばかりで、
俺の視線はもう画面の方には向いていなくて、友里の方に向けられているのが分かった。