snowscape~彼と彼女の事情~
「友里~っ、旬クンに番号教えたら~?」
隼人の肩にもたれ掛かっている亜紀は、いつの間にかお酒を飲み始めていたみたいで、
何よりもその甘い口調と赤く染まっている頬から、相当酔いが回っているんじゃないかと思った。
そんな亜紀の姿にまんざらでもない隼人の目尻は下がったままで……
「えっ?あたしの?なんで?あ、でも……」
友里の頬が赤いのはお酒のせいじゃないことくらい見れば分かってしまうのだが、
本当にこの娘は不思議な子だなと思いながら俺はポケットから携帯を取り出すと「ほら」と友里に差し出した。
「えっ?」
「番号、入力しろよ」
なぜ、携帯を差し出してしまったのか?と考えている自分もいたのだが、その行動は明らかに自らの意思だと思うことにした。
いつもなら、女が勝手に俺の携帯に自分の番号を打ち込み、勝手にワンコールして俺の番号をゲットするのだけれど……
友里は俺の携帯を開くと、それを見つめたままで固まっている。
「どした?」
「あたし、この携帯の使い方分からなくて……」
「はっ?」
本当におもしろい子だと思った
その一部始終を見ていた亜紀は急に立ち上がったと思えば、友里の手から携帯を奪い取り淡々とそれをこなしていく……
そのとてつもない指の動きに、コイツ本当は酔ってないな?とも思ったが、それはあえて口に出さないことにした。
「はい、どうぞ」と友里の番号が入った携帯を亜紀が嬉しそうに俺に渡してくると、隼人がニヤついて俺の顔を伺っている。
「はい、友里の」と渡せば「ありがとう、亜紀」と笑顔で返していた。
なんなんだろう……
不思議な女の子を目の前に、不思議な気持ちがこみ上げてくる。
亜紀が再び頼んでいたお酒が定員に運ばれると、俺は躊躇することなくそれを横取りし乾いていた喉を一気に潤した。