snowscape~彼と彼女の事情~
さっきからポケットの中で震え続けている携帯の着信の相手はおそらく茉莉だろう。
いきなりジムに通いだすと言った俺と、さっきの不審な電話の出方から間違いなく疑っているに違いない。
「どこ行くんだよ!!」
ポケットに手を突っ込んだまま立ち上がった俺に隼人が突っ込んできて「トイレ」だよと一言かえせば亜紀は「彼女~?」だなんて言っていて友里は俺から視線をはなさない。
なんでいちいち干渉されなきゃいけないんだよ
と思ったのは、このメンバーに向けてなのか電話の相手の茉莉なのか自分でもよく分からなくなってしまう。
隼人が歌い始めたと同時に、小さな息苦しい部屋から解放されると携帯を取り出した。
不在着信6件ーー
新着メールあり
その文字が視界に入ってきた瞬間に大きなため息を吐くと、俺は着信履歴から“茉莉”と並んでる文字にまた、ため息を吐いた。
通話ボタンを押すと、コールさえも鳴らないまま「もしもし?」といういかにも焦っている茉莉の声が俺の耳の中に入ってきて、
きっと、ずっと俺からの電話を待っていたのだろうと思った。
「どこにいるの?」
俺の言葉さえも、もはやだす暇もなく続けて話し始めた茉莉にイライラがつのる。
「カラオケ」
「はっ?なんで?」
「なんでって誘われたから」
別に嘘をつく必要などないだろう、そう思った俺は茉莉に向かってそう伝えた。
むしろ、茉莉に電話したのは気になったからじゃなく、あまりにもポケットの中で着信を知らせるバイブが震え続けているのがうざかったなのだから。
「旬ってよく分かんないよ……」
そう声を震わせながら言い始めた茉莉に、俺はせっかくセットした髪をぐちゃぐちゃにした。