snowscape~彼と彼女の事情~


“いるの忘れていた……”


お風呂から出ると、さっき腰かけていた場所とは違うところに茉莉は座っていて


酷く険しい顔をしている



シャワーを浴びてスッキリしたはずなのに、この部屋に入った瞬間のこの空気によってそれは消されてしまった。



「俺、疲れたから寝るわ」


そう一言いいながら、自分のコートをハンガーにかけると、ベッドの方へ歩いていった。


「旬っ……」


そんな声が聞こえたな、と思っていたら茉莉は俺に抱きついていた。


きつい香水の香りが、俺の気分をもっと悪くする



「どこにも行かないで……」



ドコニモイカナイデ……






頭の中でその言葉がフラッシュバックする



ドコニモイカナイデ……


アタシニゲルカラ……


「やめろっーー!!!!」



気がついたら、茉莉を突き飛ばしていて


俺にぶつける視線は酷く脅えたようで……



今度こそ、嘘泣きではなく茉莉の頬には涙がつたっていた。



「旬っ……どうしたの?」


「ねぇ、旬っ……」



その瞬間、テーブルの上に置かれていた俺の携帯が震え始め二人の無言の異様な空間にバイブ音だけが響いていた。












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