【完】ひとつ屋根の下、気がつけばあなたがいた

20時過ぎ、やっと父から解放されて帰る事が出来た。碧人さんが話し上手だから、父のお喋りも止まらずにいたのだ。

帰り際、継母が手作りしたというケーキを持ってきてくれた。

「桃菜ちゃんも甘いの好きだって言ってたわよね。
碧人さんの妹さん達と食べて」

「ありがとうございます…」

そういえば、お菓子作りが趣味の人だったか……。昔からなんやかんや作っていたっけ。
あんまり素直になれずに、あの頃は受け取る事も出来なかった。
あの頃だってもう少し私から歩み寄れば、何かが違ったかもしれない。

「桃菜」

「はい…」

「またいつでも帰って来なさい。桃菜の部屋はそのままにしてある。
ここはお前の家だ。いつだって帰ってきていいんだ」

そう父に言われて、胸がぎゅっと苦しくなる。
言葉が出て来ずにこくりと頷いて、隣に居た碧人さんの手をぎゅっと握った。

どうしてもこの家族を受け入れる事が出来ずに、素直に笑えずに居た事ばかりを思い出す。
心を開いたら、お母さんが生きていた頃の全てが無くなってしまうような気がして。
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