魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 レインが十歳になったとき、ライトはすでに魔法研究所に所属していた。父親は魔導士団長として魔導士団を取りまとめていた。
 忙しい父親の代わりに、ライトはレインの入学試験に付き添った。むしろ、父親が入学試験の試験官だった。
 レインはその小さな手で、ライトの手を握りしめていた。ずっと屋敷の中で暮らしていたレインにとって、学園という外の生活は未知の世界。不安からなのか、握っている手に力が入っている。レイン自身は気付いていないのだろう。顔もどこかしら、硬い表情を浮かべていた。

「大丈夫だ。俺がいるから」

 その言葉に安心したのか、小さなレインは見上げてニコリと笑った。ふと、繋いでいた手から力も抜けていた。

 入学試験では魔力鑑定が行われる。魔力は数値で表されるため、魔力鑑定によってその人物がどれだけの魔力を持ち合わせているか、というものを見極める。
 たかが十歳の子供では、それが四桁あれば将来有望な魔導士だ。それを学園生活の中でさらに高めていく。一般的な魔導士は六桁あるかないか、らしい。

「レイン・カレリナ」
 魔力鑑定士は当時の魔導士団長、つまりライトの父親。
「はい」
 返事をしただけなのに、その声が震えていた。

「そんなに緊張しなくていいから、両手を出して」
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