魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 父親に促され、別室へと案内された。
 父親とライトとレインの他に、学園の偉い人と思われる人間が数人いた。

「そこに座れ」
 促され、ソファに座るが、レインはライトの手を握ったまま離さなかった。座っていても、ライトにぴったりと身体を寄せている。レインは何かに怯えている。

「ライト。レインの魔力なのだが」

「はい」
 ライトが返事をしても、父親はなかなか口を開かない。
「父さん?」

「レインの魔力は……、鑑定できない」
 父親のそれに、すぐさまライトは声をあげた。
「どういうことですか?」
 鑑定できないのだから、鑑定できないってことなのだろうけど、その言葉の意味をきちんと確認したかった。

「ライト、魔力鑑定の上限は知っているよな」

「確か九が六桁だったような」

「それであっている。魔力鑑定ができないというのは、鑑定した結果がそれのことだ」

「え?」
 ライトは驚き、隣のレインを見下ろす。レインは不安そうに二つの目を揺らしながらライトを見上げている。

「てことは、レインの魔力は無限大」
 魔力鑑定ができない場合、つまり九が六桁の場合は、その魔力を無限大と呼ぶ。

「そういうことだ。アーロンにも()てもらったから間違いはない。まあ、元々魔力は高いだろうとは思ってはいたが、ここまでとは思わなかった。とりあえず、このことはレインが学園に入学するまでは口外しないように頼む」

「わかりました」

「もう、戻っていいぞ」
 ライトは立ち上がると、レインに手を差し出した。レインはまたぎゅっとライトの手を握る。
「失礼します」
 ライトが頭を下げ、レインを連れてその部屋を出た。

 魔力無限大。魔導士にとっては魅力的な響き。だが、それをこの十歳の妹に背負わせてもいいものなのか。複雑な思いが、ライトの胸の中をぐるぐると駆けまわっていた。
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