最愛ジェネローソ
第3話*咲宮side 素直が過ぎる彼
世間は今、ゴールデンウィーク真っ只中。
皆が、羽を伸ばしていることだろう。
いつもは、そんな風景をテレビの画面越しに眺めているだけの筈だった。
それなのに、まさか画面の向こう側になるなんて、思いもしなかった。
たった今、自分は電車に揺られている。
普段の平日の時間よりも、少し早めにアパートを出た為、僅かに眠気が残っている。
持ち物は、肩から下げた小さめのショルダーバッグと、1泊分の荷物を詰め込んだ、少々大きめのボストンバッグ。
お察しの通り、今日がよし君との旅行の日だ。
よし君と合流する駅に近付いてきた証拠に、車内アナウンスが流れ始める。
ショルダーバッグから、携帯電話を取り出した。
そして、メッセージアプリを開く。
『もうすぐで、よし君の最寄り駅に着くよ。前から3両目に乗ってます』
送信すると、直ぐに既読が付き、直ぐ様、返事がきた。
『了解』
その語尾には、グッドサインの絵文字がくっついている。
――こんなことだけで、胸が弾む。
思わず、唇が綻んだ。
その数分後、定刻通りに彼の最寄り駅に到着した。
今まで何も気にならなかったのに、突然に身だしなみが気になる。
――可笑しな所は、無いかな。
もっと早くに、ゆとりを持って直せば良かったのに、今更になってから、慌てて髪型や服装の着こなしを直した。
すると、出入口の扉が開き、数人が乗り込んでくる。
その中の1人、よし君の姿を瞬時に見つけた。
今回は彼より先に気付くことが出来たけれど、いつも彼がしてくれるように呼び掛ける勇気が出ない。
金魚の様に口をパクパクさせながら、手を上げるかどうかというところで、こちらの姿を見つけてくれた。
そして、彼が早足でやって来る。
「華さん! おはよう!」
「おっ、おはよう」
余りにも眩しい笑顔に、目を瞑りたくなった。
自分には、余りにも恐れ多くて。
そんな自分にも構わず、よし君は明るく尋ねる。
「今日、楽しみだった?」
「え」
楽しみだね、などの本人の感想ではなくて、尋ねる形で声を掛けてもらうとは思わず、間の抜けた声が漏れた。
「あんまり表情を出さない華さんの目がキラキラしてるから、楽しみにしてくれてたのかな、って」
そう言葉にされると、恥ずかし過ぎる。
そもそも、瞳の様子まで、じっくり見られていたと考えると、ますます恥ずかしくなり、うつ向いて顔を隠した。
それに対して、よし君は面白がっているのか、優しい眼差しのままで、くつくつと笑う。
彼の笑顔は、心臓に悪い。
むず痒くなって、胸がぎゅうっとするから。