最愛ジェネローソ
周りの乗客の人たちを気にしながら、小声で今回の旅行で行きたい所を出し合った。
そうしている間に、今回の目的の地に電車は停車する。
ホームへ降り立つと、この駅周辺には観光名所が集まっている為か、駅構内は人で溢れかえっていた。
人混みの中をはぐれないように、必死によし君の大きな背中を目標について行く。
荷物が詰まったボストンバッグを、周囲の人に迷惑をなけないよう、前で抱えながら歩いた。
実家での田舎暮らしを長年していた自分には、一度に非日常に放り込まれた様だ。
余りにも不慣れで、おどつき、よたよた歩きになってしまう。
その度に、よし君はこちらの方、後方を振り返っては自分との距離を確認してくれていた。
駅構内のロッカースペースを見つけると、そこまで歩幅を合わせて、誘導してくれる。
そして、よし君はそのまま1つのロッカーに、2人分の荷物を押し込んでくれた。
すると、その場でよし君が振り返る。
改めて、落ち着いて顔を合わせられたので、自分の方から尋ねた。
「まず、どこから行こう?」
よし君はその声掛けに応え、自身のお尻のポケットからスマホを取り出し、画面を操作し始めた。
「はじめは、ここから歩いて20分の博物館に行かない?
で、その後に商店街で食べ歩き!」
どう? と伺ってくれる彼の瞳は、表情は分かりやすい程に生き生きとしている。
それに、愛らしいと思った。
――2人きりの時、こんなに楽しんでくれるなんて。
「いいね。行こう」
反対をする理由なんて、見つからない。
まず、目的の博物館への道のりを自らでも調べようとした時、突然によし君から手を差し出された。
よし君の行動に、自分は首を傾げる。
そうして居れば、よし君は更に差し伸べてくる。
「はぐれないように、手、繋ご」
「え……、や、大丈夫」
そんな恥ずかしいことは出来ない、と思わず、ど直球にお断りしてしまった。
彼は、その反応に如何にも傷付いた顔になった。
「ご、ごめん。でも、ちゃんと頑張って、ついて行くから。ご心配なく……」
そんな顔をさせてしまったことに、罪悪感を抱き、焦る。
すると、よし君の方から強制的に手を掴まえられた。
大きな手のひらは、自分の手を意図も容易に、包み込んでしまった。
「俺が大丈夫じゃないから」
「え」
「だって、華さんって、ひらりと何処かに行ってしまいそうだから」
「な、何それ」
「手を繋がせてほしい」
せがむような様子を雰囲気だけで、感じ取れてしまう程には彼とは、もう特別な関係になっているのだと、妙に自身を持てている。
その上、そんな彼の手を、たった今も振り解きたい衝動に駆られる。
あまりにも、恐れ多くて。
包まれたままの自身の手に感じている温もりに、安心しきっているくせに、天の邪鬼な自分が全く嫌になるというものだ。
いたずらに、よし君の手から離れようとしてみる。
すると、瞬時により強い力で握り直された。
それは、まるで逃がすまい、と云うように。