最愛ジェネローソ
「ちょ、ちょっと、これは恥ずかしい。ちゃんと1人で歩けるから」
正直な本音を打ち明けても、離してくれる素振りも無い。
それどころか、よし君は口を尖らせる。
「嫌?」
「い、嫌じゃないけど……」
「『じゃないけど』?」
正面から、じっと見つめられたままで、問い質される。
少し圧をを感じるが、嫌な圧ではない。
こんなやり取りですらも、むず痒い感情になる。
何も言えなくなった自分と、この1歩も進めない状況を打開しようと、よし君は照れ臭そうに突然、暴露した。
「……ごめん。華さんと手を繋いで歩くの、ずっと夢だったの」
自分が、いかに男性慣れをしていないかが、それはもう、よく分かる。
頬を染める彼の表情を、こんなに間近で見せられたら、心臓が跳ね上がり、忙しない。
こんなことでは、今日1日もたないのでは、と非常に悩ましい。
改めて、初めて繋がれた手と手を見つめた。
そうすれば、本当にこの人の彼女になったんだ、とじわじわと実感が湧き出す。
嬉しさからくるものなのか、得体は知れないけれど、無性に誰かや何をぎゅうと抱き締めたい気持ちになった。
その気持ちを堪えていると、よし君には気付かれてしまったようで、握る手の指が僅かに動き、自分の手をするっと撫でられる。
自分が何をしたって、もはや恥ずかしさしかなくて、彼に従うことにした。
――どうしたって彼には、もう敵わない。
ようやく博物館へと向けて、手は繋いだままで歩き出した。
その道中や、博物館の仏教や、その歴史にまつわる展示を回っている時でさえ、よし君の横顔を何度も眺めてしまう。
その度に、胸が熱くなる。
――好きだなぁ。
楽しそうに笑うところも、展示品に集中している真剣な姿も。
時々、こちらを気にかけて、振り向く柔らかい表情も。
そんな、よし君の人として、豊かなところが好きだ。
尊敬している。
今頃になってから、よく思う。
「華さん? 俺の顔に、何か付いてる?」
「え。う、ううん」
彼もまた、こちらを気に掛けて振り向いてくれた時に、視線が合う。
慌てて、顔を逸らした。
不思議そうにする、よし君が正面を向き直ったことを横目で確認した後、再び横顔を眺める。
その横顔には彼と知り合った、あの学生時代の面影、そのままが変わらずに残っている。
変わったのは、自分自身の彼に対する気持ちだけだ。
この気持ちも、この優しい人も、大切にしたい。
なんて温かい気持ちが、自分の中にあるんだろう。
そう思って、お互い展示に夢中になり、離れていた手を、つい自分の方から手を伸ばして、よし君のシャツの裾を掴んだ。
自分でも驚く程に、それは衝動的だった。
ただ彼の側に、もっと寄りたいと思えてしまった。
すると、彼も酷く驚いている。
「どうしたの」
「あ……。ごめん。何でもない、よ」