白の悪魔と黒の天使
社用車を駐車場に停め、営業部に戻る途中の右近。

少し離れたところの社長専用の黒塗り高級車に、乗り込む麗華と西園寺。

今の会話を見た右近は、麗華の笑顔に思わず見惚れた。

…周囲には沢山の女子社員。

綺麗な子や可愛い子が沢山いる。笑顔だって見慣れているのに。麗華の笑顔は別物だった。

右近に見せる笑顔はいつも引き攣っていて、明らかに不自然だ。

あんなに屈託のない笑顔など、当然見たことがなくて。

見惚れたと同時に、胸がひどく痛んだ。

「…あの笑顔を直に見たいな」

口から自然と出ていた。

どうしたらあの笑顔を引き出せるのか?

「嫌われてるからな」

麗華の態度でそれはよくわかっていた。

社内で、あの笑顔を引き出せるのは、きっと今の所西園寺だけだろう。

「…白崎さん!帰ってくるの遅いですよ!」

駐車場に慌ててきた営業部の同僚が右近を呼びに来た。

『白崎』と言う言葉に、いち早く気づいたのは麗華。

麗華は慌てるように、西園寺を車に乗せると、自分もそそくさと車に乗り込んだ。

その顔に笑顔なんて微塵も無かった。

右近は胸を締め付けられるような感覚に陥る。

「白崎さん、お願いですから早く部署に帰ってきてください。連絡しましたよね?トラブってるって!」

同僚に背中を押され、右近は渋々部署へ戻った。
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