フヘンテキロマネスク
淀みのない真っ直ぐな目、凛と伸びた背筋、鍵盤に走らせる指先に、どうしてか目を奪われずにはいられなかった。


「えー、ここまではできるのに……、なにこのパート。指つるんだけど。もう、」



そして演奏を中断するとまたコロッと情けない顔になって、泣きそうになる。その顔を見て胸がざわついた。


普段からひとりごとが多い方なのか、それともこうして追い込まれているときだけなのか定かではないけれど、ぶつくさ言いながらも向き合うことから逃げないのが、俺には不思議だった。


だってこんなのただの行事で、自分を追い込んでまですることじゃない。そもそも、そこまでピアノに自信がないんだったら黙っていることだってできたのに。


俺には理解できない、そう思うのと同時に、すこし悔しくなった。


『ピアノ弾けるなら最初から言ってくれたらよかったのにね』


教室から彼女が去った後、そう呟いたクラスメイトを思い出して、歯痒くなる。
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