That's because I love you.
初デート
次の日、土曜日。
明広との待ち合わせ場所に向かうまりあは、電車の中で青ざめていた。

(…どうして今日に限って車両点検で電車止まるの…っ!せっかく早く家出てきたのに…動いて、早く動いてぇぇ…っ!)

"御木本さん、ごめんなさい!電車が止まって少し遅れそうです…本当にごめんなさい!"

明広にそうメッセージを送ると、"大丈夫、待ってるよ。"と返ってきた。
15分遅れで駅に到着した電車から飛び出したまりあは、待ち合わせ場所まで走る。

「ごめんなさい御木本さん…っ!遅れちゃって…お待たせして本当にごめんなさい…っ!」

はぁはぁと息を切らしながら半泣きで必死に謝るまりあに、明広は思わずぽかんとしてしまう。
元カノのギャル達はどんなに遅れようとも、"ごめぇ~ん、待ったぁ?"と笑っていたのだ。

「…20分しか待ってないし、そんなに謝らなくてもいいよ。電車が止まったなら君のせいじゃないし。」
「でも…っ。」
「映画にも余裕で間に合うじゃん。行こう。」
「は…はい…っ。」
「…あ。」
「…?」
「…髪乱れてる。ちょっと待って。」

走ったせいで乱れていたまりあの髪を、片手でといて直してやる。
ウェーブが掛かった柔らかい金の髪は、撫でてとくとすぐ整った。

「…これでよし。………。」

まりあを見下ろすと、真っ赤な顔からぼしゅぅぅ~っと大量の湯気を出し固まっていた。

(…また茹でダコみたいになってるし。)

ウブ過ぎる反応に、明広は笑いを必死で抑える。

「…わかりやすいねぇ君…。」
「ぁぅ…ぁ、ありが、ありが…。」
「…はいはい。ほら行くよ、歩いてまりあ。」
「はい…、……。」

歩き出したまりあがすぐ立ち止まって目を回しながら固まったので、今度は我慢出来ず吹き出してしまった。

「…名前で呼ばれるの嫌だった?」

からかう様に言うと、まりあはぶんぶんぶん、と勢いよく首を振る。

「…嬉しいです。とて、とてもぉ…っ!」
「それはよかった。そろそろ歩ける?」
「はい…歩けます…っ!」
「右手と右足同時に出てるけど。」
「ふぇ…!?ぁぅ…!」

ぎくしゃくと歩くまりあに笑いながら、彼女を改めて見やる。
小花柄の白い膝丈ワンピースに、ベージュのぶかぶかなミドル丈のトレンチコート、ピンク色の小さな斜め掛けのバッグ、白いローヒールのパンプス。
春らしい服装がよく似合う彼女は、アイドル顔負けの愛らしさだった。

(…やっぱり可愛い。7年前会ったあの子に似てるし、見た目滅茶苦茶好みだな…。反応とかもいちいち面白いし…。)

今日のデートは気が重かったはずなのに、今はそれは何処へやら、明広の胸はドキドキと高鳴っていたのだった。

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