That's because I love you.

「…私…親が居なくて、施設で暮らしてるんです。そのせいで昔からいじめられてて…人と話すのがどんどん苦手になって、そしたら、さらにみんな冷たくなっていって…。…今日クラスの男子が…"お前なんか生きてる価値ない"って…。みんな…私のことなんか、要らないの…っ…。」

まりあはカフェオレの缶を両手でぎゅっと握りしめながら、また泣き出してしまう。
すると頭の上に、ぽんっと優しく彼の掌が乗った。

「…そんな酷いこと言う奴が居るのか。可哀想に…つらかったね。でも大丈夫。少し話しただけでわかる、君は優しい子だよ。」
「…優しい…？」

そんな言葉を人から言われたのは、初めてだった。
まりあがそっと横に座る彼を見上げると、彼は優しく微笑んでくれていた。

「そう。それだけでも生きてるには充分過ぎる程の価値なんだよ。でも後ろ向きなことばかり考えてたら、その優しさもいつか負の感情に埋もれちゃうかもしれない…そんなのもったいないよ。」
「…私…生きててもいいの…？」
「良いに決まってるでしょ。周りの人間の悪い言葉なんか、一切耳に入れなくていいから。…自信持って。君は優しい、いい子だよ。」
「…………。」

まりあはひっく、としゃくり上げながら、片手で涙を拭った。
安心と暖かさが、苦しかった胸に一気に広がっていく。

「…そろそろ帰らないとな。」

彼が通学鞄の中からスマホを取り出し、ロック画面に映った時計を見ながら呟く。
まりあが彼のスマホを無意識に見やった時、開かれた彼の鞄の中の、テスト用紙と思われる紙が目に入った。
"氏名"の欄に、"御木本 明広"と、自筆で書かれてあった。

(……お兄さん、御木本明広さんっていうんだ…。)

「…君は？一人で帰れる？」

彼の言葉に、ハッと我に返る。

「は、はい…っ！帰れます…っ。」
「この辺、よく来るの？」
「はい。この公園はしょっちゅう来てて…。」
「そっか。今度もし会ったらさ、また話そうよ。」
「…はい…っ！」

ベンチから立ち上がると、彼におもむろに左手を差し出された。

「…生きて、笑って。約束だよ。」
「…はい。…約束…っ！」

微笑む明広の瞳がとても優しくて、まりあは涙を浮かべながら、安心に満ちた表情で笑った。
二人は指切りをすると、公園を後にしたのだった。