置き去りにされた花嫁をこの手で幸せに
「しつこいです。なんなんですか?何しにきたんですか?」

「お腹空いてないかな、と思って」

「空いてません!帰ってください。もう放っておいてください。会社も辞めます。私は必要とされてないんですよね。もうわかりましたから」

「そんなこと言ってないじゃない」

「みんな槇村さんのことばかりじゃないですか」

「それは梨花ちゃんのいうように同情されてるのかな。捨てられた女だから……。でもね、仕事は仕事で自分なりにやってきたつもり。でも同情なのかもしれないね。私、この仕事が終わったら辞めるつもりなの。だから梨花ちゃんには頑張っていってもらわないと困るんだ。自分勝手かもしれないけど梨花ちゃんに企画戦略室で頑張っていってほしいな」

「どうして辞めるんですか?私が言ったからですか?ごめんなさい。槇村さんをやめさせたいわけじゃないんです。」

「違うよ。梨花ちゃんのせいではないの。私の問題。彼の相手がうちの社内の子だったの。そんな2人と一緒になんて働きたくない。2人が幸せになるのを見るなんて耐えられない。相手を知らずにいたからここまで働いてきたけど、この前聞いて驚いたの。そりゃ、みんなの格好のネタになってたよね。知らないのは自分だけだったのかなと思うと情けなくて。裏切った彼を見返したかったけどそんな強情なことはもうしたくない。もう傷つきたくないんだ。私、頑張ってるけどそんなに強くないよ。彼の相手を聞いてからすぐに辞めたかったけどこのプロジェクトだけは成功させたかったの。身勝手だけど終わったら辞めるつもり」

「槇村さんが辞めることなんてない。槇村さんが悪いことなんて何もないです。相手が悪いのに」

「でも選んでもらえなかったんだ、私」

梨花ちゃんのドア付近で話していると廊下を通る人たちに見られる。
梨花ちゃんは部屋に入れてくれ、2人で小さなテーブルを挟んで座った。

「槇村さん、ごめんなさい。私、槇村さんが頑張ってること知ってます。なのにさっきは嫌な言い方しました。槇村さんが白黒はっきりした性格だって分かってます。だから加賀美さんとも意見をぶつけ合えるってこともわかってるんです。なのにさっきあんなこと言われたからつい……ごめんなさい」

「いいの。自分では頑張ってきたけど周りからは同情されてるんだなぁって改めて気がついたの。だって捨てられた挙句、彼の相手は社内の子だなんてさ。そりゃみんなも気を使うよね。なんで式が破断になったときに会社を辞めなかったんだろうって思ったよ。ごめんね、気を遣わせてたよね」

「違います!いつもの槇村さんだから私は何も気を遣ってなんかいないです」

「ありがとう」

「辞めるなんて言わないでください」

「うーん。もういいかなって思ってる。こんな強い性格だから捨てられたんだろうし、私も少し休みたいかなって。強く見せてたけど、本当に強くなってたのかも。でもやっぱり弱いところもあって……だから疲れちゃったかな」

「槇村さんは企画戦略室に必要な人です。加賀美さんもさっきいってたじゃないですか。私も2人はいいバディだと思ってます。ただ、私が加賀美さんを好きだから素直に認めたくなかっただけで」

「その真っ直ぐなところが梨花ちゃんのいいところだよね」

「槇村さん」

私の気持ちはもう疲れ果てていた。
何もかも一度リセットしたかった。

「ごめんね。本当に一度辞めたいの。まだ誰にも言えてないけど本気で考えてるの。もう疲れちゃった。みんなから見られるのも噂されるのも」

梨花ちゃんは黙って私の話を聞いているが目には涙が浮かんでいた。

「梨花ちゃんのせいじゃないの。だから本当に気にしないで」

私はそういうと持ってきていたビールを開けた。もう緩くなって美味しさがわからなくなっているがもう1缶も開けると梨花ちゃんに渡した。

「ここで辞めたらダメだよ。私がいうことじゃないけどここが踏ん張りときだからね。今頑張らないでいたら絶対に後悔するよ」

「なら槇村さんだって……」

「私は頑張ってる。もう精神的にも限界が近いの。捨てられたこと、会社での視線や陰口にもう耐えられなくなってきてる。仕事が楽しくて戻ってきたけどそれだけじゃ耐えられなかった。この仕事が大好きだけど乗り越えられなさそう。弱くてごめんね」

梨花ちゃんはとうとう泣き始めた。
私は涙さえ出てこなかった。
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