置き去りにされた花嫁をこの手で幸せに
翌朝、大介くんから連絡が来た。

『何時の飛行機ですか?俺は今からパラセーリングに行こうと思います。どうですか?冬で寒いけどそれも一興じゃないですか?天気もいいし行きませんか?』

パラセーリング?
やったこともないし、やろうと思ったこともない。

『やりたい!飛行機は16時で沖縄経由』

『俺と一緒ですね。じゃ、タクシーでホテルに迎えに行くんでレンタカーに乗せてください。すぐ行きますよ!』

『頑張る!』

ひとまず朝ごはんも着替えも終わってたので良かった。
慌てて洗面道具を片付け、チェックアウトの準備をした。
フロントへ降りるとリュック一つの大介くんがロビーにいた。

「おはよう。早いね。ごめん、今すぐチェックアウトしてくるからね」

「大丈夫。待ってますから」

フロントでカードキーを返し、精算をすると大介くんが私からレンタカーのキーを受け取った。大介くんが運転してくれるって言ってくれ、私は助手席に乗り船着場までむかった。

「パラセーリングやりにきたの?」

「いえ、何しようかなって昨日検索してたらヒットして。面白そうじゃないですか?だから今日の朝、ショップに連絡したらやれるって言われたんです」

「すごい行動力だね。私なんてまだ何しようかなって考えてただけなのに」

「槇村さんは基本のんびりなんですよ。自分ではシャキシャキと思ってるかもしれないけど、フワフワしてるところも結構ありますよ」

「え?そうかな。私、男勝りで白黒ハッキリしないと、ってタイプじゃない?」

「いや、そう見せてるだけで結構フワフワしてますよ。でも決めるところ決めてきますけどね」

人からはそう見られていたのかぁ。
なんだか不思議に思っているとあっという間に到着した。

水着とか何もなかったことに今なら気がつくと大介くんが近くで短パンが買えるらしいですよって教えてくれた。
2人でお揃いのような花柄のショートパンツを購入し、上はロンTにパーカーを羽織った。
上から下までペアのようなコーディネートだった。

ショップの人からも仲がいいですね、と声をかけられ恥ずかしくなった。

大介くんは堂々としていて「そうですね」なんて返していた。

ボートへ乗り込み海へ出るとすぐにハーネスの装着やパラセーリングの説明を受けた。

「今日は快晴だから運が良ければマンタとか見れるかなぁ」

その言葉に私のテンションは上がり、とても楽しみになってきた。
大介くんもハーネスをつけてもらいながらボートで流れる音楽のリズムに合わせテンションが上がっているようだった。

「槇村さん、楽しみですね!」

「うん!」

あっという間にパラセーリングのポイントまで到着した。
パラシュートが広がりいよいよフライトする。
緊張で綱を持つ手に力が入る。
フライト前に記念撮影をしてくれるが大介くんは満面の笑みだが私は強張っているのが分かる。

「大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。緊張してるだけだから」

私がそういうと綱を握っている手の上から大介くんが何も言わずに私の手を握ってきた。

パッと大介くんの顔を見ると頷き、笑顔になった。

私も頷くとパラシュートは上がり始めわたしたちの体もボートから離れ空へと上がり始めた。

ぐんぐんと空に引き込まれていく感覚に怖さを覚えていると、握られた手をトントンと指で合図された。

顔を上げると遠くに魚の群れが見えた。
カラフルな魚が石垣ブルーに透けとても鮮やかで綺麗だった。

「すごい……」

風を受け怖く感じていたのは一瞬で、この風さえもすぐに気持ち良くなった。
大きな声で叫びたいような、心が解放されるのがわかった。

大介くんが握っている手と反対の手で指差す方をまた見ると、大きな魚が見えた。

もしかして……マンタ?

「大介くん!マンタなの?」

「そうみたいですね。かなり大きいですね。うわぁー気持ちいい。サイコー!」

大きな声で話す大介くんの横で私も、

「サイコー!!!」

と大声をだした。

大介くんは笑いながら私を見ていた。

来てよかった。
心からそう思った。

空にいるのはあっという間でだんだんとロープが短くなりボートへと引き寄せられて行った。

ボートへ戻ると私は大介くんに興奮のままに話しかけた。大介くんも初めての体験でかなりテンションが上がっていて2人でとても楽しかったね、と話しながら戻った。

スタッフから写真のデータをもらい確認するとこんなに高いところにいたのかと驚いた。
ボートから撮影された私たちはかなり小さく空に溶け込んでいた。
望遠で撮られた写真には私たちの楽しそうな顔が撮られており嬉しいような恥ずかしいような気持ちだった。

そんな時、加賀美くんからまた電話が来た。

「はい」

「槇村、どう。楽しんでるか?」

「うん。今パラセーリングしてきたの。すごく気持ちよかった」

「そうか。よかったな。1人でよくできたな」

「大介くんがいるから大丈夫だったよ。あ、ごめん。もう行かなきゃ。また明日ね」

「あ…、おい!」

加賀美くんが何かいいかけていたが私は大介くんに呼ばれ電話を切った。
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