嘘は溺愛のはじまり
「母にはほとんど食事を作って貰った記憶がないんです。ちゃんとしたものが食べたければ、買ってくるか、自分で作るしかなくて……」
さいわい、食べるものを買うためのお金だけは自由に貰えたので、料理が出来ない小さい頃は、もらったお金を握りしめて、スーパーへお弁当やお総菜を買いに行っていた。
毎日スーパーのお弁当だとさすがに飽きて、ある日たまたまつけていたテレビで料理番組が始まり、それを見た私は、見よう見まねで料理をするようになり……。
「……だから、私のお料理の先生は、テレビの料理番組なんです」
「じゃあ、たくさんの苦労と努力で、いまの結麻さんがあるんだね」
そう言われると、嬉しいけれど、ちょっと恥ずかしい。
だって、苦労と言うよりは、ただ生きるために必要だっただけだから。
確かに少し努力はしたけど、それは包丁を握るには、その時の私が少し幼すぎただけだ。
それでも伊吹さんは、「頑張ったんだね」と私の小さな努力を褒めてくれた。
母にも、父にも、そんな風に褒められた経験がないように思う――。