嘘は溺愛のはじまり

――午後の役員会議が終わる頃に、私の席の内線が鳴った。


「秘書課、若月です」

『笹原です。これから各役員が役員室に移動するので、専務室にコーヒーを二つ持ってきて欲しいんですが、お願いできますか?』

「はい、分かりました、専務室にコーヒーを二つ、ですね」

『それと、野村さんには、社長室に日本茶を三つ、お願いしておいて下さい』

「社長室には日本茶を三つですね。分かりました」


受話器を置いて、専務秘書の笹原さんからの伝言を野村さんに伝える。

きっとすぐに会議室から移動して来られるだろうから、私たちは急いで給湯室へと向かった。


私はコーヒーの準備、野村さんはお茶を準備する。


「緊急招集だったから社外取締役はオンライン参加だったし、今日いらっしゃってるのは、社長と副社長と、専務と、常務、あと篠宮取締役かー」

「あ、そう言えば私、篠宮取締役にはまだお会いした事がないです」

「あー、そっかー。普段は子会社の方にいるからねー」


篠宮取締役は社長の弟で、子会社の社長を務めている。

基本的に普段は子会社の方にいて、重要な会議の時だけこちらに来るらしい。

こちらに来ることがあっても、必ずしもこのフロアに立ち寄るわけではないから、私はまだ一度もお会いしたことがない。

社長の弟と言うことは、つまり、伊吹さんの叔父にあたる人だ。

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