嘘は溺愛のはじまり

「社長の弟さんなだけあって、篠宮取締役もダンディーで素敵よー?」

「そうなんですね……」


伊吹さんはご自身でも父親似だとおっしゃっていたことがある。

と言うことは篠宮取締役も間違いなく、とても素敵な方なのだろう。

篠宮家の遺伝子、恐るべし……。


「じゃあ、コーヒー持って行ってきますね」

「はいはいー。私も社長室に行ってきまーす」


それぞれの飲み物をトレーに乗せて、目的の役員室へと向かう。

専務室をノックすると、笹原さんが扉を開けてくれた。


「若月さん、ありがとう。そのまま中まで持って行ってもらっていいかな?」

「はい、分かりました」


笹原さんが、伊吹さんがいるであろう奥の部屋の扉をノックする。

中から「どうぞ」と言う声が聞こえ、笹原さんが扉を開けた。

笹原さんに「よろしく」と言って送り出され、私は初めて、専務取締役の部屋の中へと足を踏み入れる。


専務へのお茶出しは基本的に、私か野村さんが入れたものを、笹原さんが中へと運んでくれる。

社長、副社長、常務へのお茶出しも、基本的には同じだ。

だから私がこの部屋に入るのは、ここへ入社してからが今日初めてだった。


「失礼します。コーヒーをお持ちしました」


コーヒーをこぼさないように細心の注意を払って、お辞儀をする。

ゆっくりと頭を上げると、専務室の応接セットのソファには、伊吹さんと、もうひとりの姿があった。

きっとこの方が社長の弟である篠宮取締役なのだろう。

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