嘘は溺愛のはじまり
――コーヒーとは、こんなにもただの苦い飲み物だっただろうか。
そんな風に思うなんて、初めての経験だった。
叔父から電話で相談を受けた翌日の夜、俺はまだ残されている仕事を中抜けしてカフェへと足を運んだ。
彼女へは叔父から連絡が行っているはずだ。
今日の彼女の仕事が何時に終わるかは分からないが、いつもなら夜8時すぎ頃に店に来ることは俺も既に承知済みだ。
今はまだ7時すぎ。彼女が来る時間まで、1時間以上ある。
早く来すぎたことを自覚しているが、もしすれ違いになってしまったらと思うと、早すぎると分かっていても気が急いた。
叔父の和樹さんがからかうような視線をこちらに向けてくるが、無視を決める。
タブレットPCで明日からのスケジュール確認と、簡単な決裁書類に目を通して時間を潰す。
コーヒーを口に運ぶが、やはり苦くて不味い。
いや、叔父の淹れ方に問題があったわけではない、俺の心理的な問題だと理解はしている……。
苦い後味に眉をしかめながら秘書からの業務連絡に目を通していると、店の扉が開き、鈴のような優しく可愛らしい声が耳を掠めた。
「こん、ばんは、」
駅から走ってきたのだろうか、少し息が切れているようだ。
「こんばんは。お呼び立てして申し訳ありません」
和樹さんが彼女に優しく話しかける。