嘘は溺愛のはじまり
彼女の初出勤には適当に理由をつけて、一緒に出勤することになっていた。

本来なら人事部が全てを手配してくれるから、俺の出番などない。


しかし、一緒に行くことにして心底良かったと思えるような出来事に出会う。


――人事部人事課、奥瀬。


歳は確か結麻さんと同い年のはずだ。

常務から、とても優秀だと聞いている。


確かに、隙はない。

奥瀬は流れるように必要な説明をして、結麻さんに書類を手渡した。

一瞬、意味ありげな視線を結麻さんに向けたが、彼女は全く気づいていない。


嫌なことに気づいてしまった――。


彼女と共に、フロアを後にする。

振り返ると、扉を閉めようとした彼女が、ふと視線を人事部へと向けた。

奥瀬からはもう俺の姿は見えていないのだろうか、視線を上げた結麻さんに向かって、小さく手を振っている。

それを見た彼女が、慌てて頭を下げた。


――なんだ、いまのやりとりは……?


冷静そうな奥瀬が、初対面の女子社員にあんな砕けた態度を取るようには見えない。

もしかすると、奥瀬と結麻さんは、面識があるのかも知れない。


この予感が本当に的中するとは、この時はまだ知るよしもなかった――。


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