嘘は溺愛のはじまり
【結麻さんが店に来ました。楓くんが試作品を作っていたので、夕飯代わりに試食してもらい、楓くんにマンションまで送らせました。ご報告まで】


――そんなメッセージが、叔父から入っていた。


楓からも【結麻ちゃんをマンションまで送り届けました。早く帰ってあげて】とメッセージが届いている。


俺だって、一刻も早く帰りたい。

幸い、なんとか会食だけで終わることが出来た。


笹原の運転する車の中で結麻さんへ帰宅を知らせるメッセージを送ると、すぐに既読が付き【お疲れ様でした気をつけて帰ってきて下さいね】と返事が返ってくる。

一分でも一秒でも早く、彼女に会いたい……。


――やっと自宅へ帰り着き、玄関を開けると、小さなパンプスが一足、行儀良く並べられていることに安堵する。

すぐにパタパタと音を立てて、結麻さんが駆け寄ってきた。


……ああ、やっと会えた。


「伊吹さん、おかえりなさい」

「ただいま」


……あれ?


俺は思わず、彼女の頬に手を伸ばした。

彼女の頬に、泣いた跡があったから……。

叔父の店に行って、弟の楓に送ってもらって、何事もなく帰ってきたはずだ。

……それとも、帰り際に、楓に何かされた、とか?

いや、楓はそんな男じゃないはずだ。

だったら、なぜ泣いていた?

目が腫れるほど泣くだなんて、一体何があった……?


心配になり、出来るだけ優しく問うと、「映画を見ていて、切ないストーリーだったから」、だから泣いてしまったのだと言う。

その言葉に俺がどれほど安堵したか、彼女は知らないだろう。

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