嘘は溺愛のはじまり
まだ乾ききっていない結麻さんの髪に触れる。

俺を見上げる彼女の瞳はまだ少し潤んでいて、堪らなく欲情を誘った。


“髪を乾かす”と言う口実で、彼女に触れる権利を得る。あまりにも不埒すぎる己の思考に、心の中で思わず苦笑した。

結麻さんの純粋そうな瞳が鏡越しに俺を見つめていて、己の汚さを思い知る。


髪を乾かしてもらったことに対して申し訳なさそうにする結麻さんに、「役得だったから」と、本音が口をついて出てしまった。

彼女は俺の言っている意味が分からないらしく、俯かせていた顔を上げて俺の表情を窺う。

ドライヤーの温風で暖まったからなのか、頬がうっすらと紅潮している彼女は、とても愛らしい。知らず、俺の頬も緩んだ。


どうすれば、彼女の心をこちらに向けることが出来るだろう?

どうすれば、俺だけのものになってくれるだろうか。


この頃、俺は本当に、必死だった。

彼女の心をどうにかしてこちらに向けたくて、花を贈ったりして。


それが、彼女を苦しめていたとは、知らずに――。


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