嘘は溺愛のはじまり
「ただいま、結麻さん」
驚いてキョトンとしている結麻さんにそう告げると、途端に頬を赤らめる結麻さんが可愛くて、大急ぎで帰って来た甲斐があったと、心の底から思う。
母は俺と結麻さんの関係を疑っていないから、ここであまりぎこちない様子を見せるわけにはいかない。
結麻さんもきっとその辺は心得ているだろうから、恋人同士らしく見えるように、なるべく自然な感じを装って彼女を抱き寄せた。
途端に甘い香りが鼻腔をくすぐる。
耐えきれず、彼女の額にそっと口づけた――。
母がその場にいることなど、すっかり頭から抜け落ちていた。
まあ、見られても何の問題も無いが。
結麻さんが慌てて俺の腕から抜け出そうとするが、離してあげられそうにない。
母が風呂に入るのを見送り、結麻さんと隣り合ってソファへと座る。
帰りの飛行機で思いついた“提案”を口にすると、やはり頬を赤らめて、困ったように俺を見上げていた。
「今日は、同じ部屋で寝ようか」
困惑しきりの結麻さんに「先に主寝室のバスルーム、使って良いですよ」と言って、有無を言わさずに見送った。
別に、抱こうというわけではない。ただ、同じベッドで眠るだけだ。
もし結麻さんが本気で嫌がったり怖がったりしたら、すぐにやめる。
それだけは己に固く誓った。