嘘は溺愛のはじまり
――俺はかなりのショートスリーパーで、普段の睡眠時間は3~5時間だ。

結麻さんと同時刻にベッドに入っても、眠れない。

それに、結麻さんの手料理を食べるためにかなり仕事をショートカットして帰宅しているので、その分の仕事をいつも寝る前にさばいていた。


ノートパソコンだとキーボードを叩く音がうるさい可能性があるから、隣で眠る結麻さんを起こしかねない。

その点、タブレット端末は優秀だ、多少効率は落ちるが、作業が出来ないわけではない。

結麻さんの可愛らしい寝息をBGMに仕事をする。


集中していくつかのタスクをこなし、結麻さんが動く気配で俺はタブレットから顔を上げた。

どうやら結麻さんが寝返りを打ったようだ。


はは、可愛い……。

思わず寝顔をじっくりと見てしまう。


少し寒いのか、こちら向きにコロリと転がった後、丸まるようにして眠っている。


「……結麻さん、寒いの?」


眠っている人に声を掛けるのは良くないと思いつつ、つい声を発してしまった。

俺の声に起きる様子はなく、更にキュッと丸くなる。


……猫みたいだ。


「寒いなら、こっちにおいで。暖かいよ……?」


懲りずに声を掛けると、「ん……」と可愛い声を出した結麻さんは、モゾモゾとこちらにすり寄ってくる。

ベッドの真ん中を少しこちらに過ぎたあたりで、再び背を向けて、丸くなってしまった。


「……」


可愛い。

思わず手が伸びる。


規則正しく寝息を立てている結麻さんを、そっと、後ろから抱き締める。

……暖かくて心地が良い。


「……おやすみ、結麻さん……」


彼女を抱き締めたまま、俺はゆっくりと、眠りに落ちた――。

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