嘘は溺愛のはじまり
――少しだけうとうとしていただろうか。
結麻さんが動く気配で目が覚める。
身動きしようとして、抱き締められていることに気づいたのだろう、慌てているのが気配で分かる。
しばらく寝たふりをして様子を窺っていると、ふ、と笑うのが聞こえた。
「なにか、楽しい夢でもみた?」
訪ねると、ますます慌てる。
俺の腕からなんとか抜け出そうとするのを無視をし、もう少し眠ろう、と提案して狸寝入りをすると、彼女は諦めたのか、俺の腕にそっと手を添えた。
彼女から触れられることは、滅多にない。俺が本当に眠ってしまったと思っているのだろう。
「――出張、お疲れ様でした」
聞こえていないと思っているのだろうけれど、結麻さんにすっかりと密着した俺の耳は、彼女の可愛らしい声をちゃんと拾っていた……。
もう一度目覚めたあと、今後も一緒に眠ることをかなり強引にだが、了承してもらった。
毎朝、少し困ったように、恥ずかしそうにしている結麻さんが可愛くて仕方なくて、起きるのが心底嫌になったのは言うまでもない――。