嘘は溺愛のはじまり
篠宮さんと一緒にフロアを後にする。
フロアの半透明な扉を閉める時にふと視線を上げると、人事部で奥瀬さんが私に向かって小さく手を振っていたので、私は慌てて頭を下げて、扉を閉めた。
「……役員室のフロアに移動します」
「はいっ」
いよいよ、私の職場……。
役員室と社長室があるフロアは、エレベーターを降りるとすぐに一部が透明になったガラスの壁で仕切られていた。
そこに受付のようにデスクが二つ並んでいて、更に奥へと廊下が続いている。
そのデスクには、またしてもとても綺麗な女性が座っていて、篠宮さんと私を見るなりすぐに立ち上がった。
「篠宮専務、おはようございます」
「おはよう。彼女が今日から秘書課でお手伝いをしてくれる若月さんです」
「若月結麻です、よろしくお願いします」
「野村亜矢です。こちらこそ、よろしくね」
「業務のことは野村さんに教えて貰って下さい。まぁ初日ですし、気楽に、ね」
「は、はいっ。あの、ありがとうございました」
「頑張って下さい」
「はいっ」
篠宮さん――いや、篠宮専務は、野村さんに「あとは頼みました」と言って、奥の役員室へと去って行った。
野村さんが頭を下げて見送っているので、私も同じように頭を下げる。
篠宮専務が役員室へ入る音がして、やっと野村さんが頭を上げた。