嘘は溺愛のはじまり
「若月さんのメインの仕事は電話対応や役員のスケジュールの把握、各秘書が持ってくる接待の領収書や交通費の伝票を入力したり、出張に関わる手配や精算をしたり、かな。そんなに難しいことは何も無いから安心して」
「はい」
「じゃ、とりあえず専属秘書の面々に挨拶しに行くから、ついて来てー」
「はいっ」
社長室は廊下の一番奥だ。
野村さんがノックをして「野村です」と名乗るとすぐに「どうぞ」と男性の声が聞こえ、私は野村さんに続いて入室した。
入ってすぐの所に大きなデスクがあり、そこが秘書席らしい。
秘書席の奥の扉の向こうにこの大きな会社の社長がいるのだと思うと、姿は見えないのに思わず緊張してしまう。
社長の専属秘書は30代後半の男性で、見るからに有能そうな風貌だった。
「工藤さん、こちら、今日から私たちのお手伝いをしてくれることになった、若月さん」
「社長秘書の工藤です。よろしく」
「若月結麻です。こちらこそ、よろしくお願いしますっ」
緊張してしまい、思わず大げさすぎるほどのお辞儀をしてしまった。
工藤さんは私の緊張感あふれる態度にも動じることなく、にこやかに微笑んでいる。
さすがは社長秘書。
「野村さん、良かったね。やっと残業から解放されるね」
「ほんとですよー。ノー残業デーとか言いながら、残業ナシで帰れた試し、無かったですもん」
「デートも出来ないし、ね?」
「それはもうホントに! いつもそれが理由で別れちゃうんですもん!」